この記事では肥満の猫のダイエットの必要性について、理想体重の求め方、具体的なダイエットのための食事量の求め方などを解説しています。
愛猫が肥満の場合や、獣医師による猫のダイエットに関する知識を知っておきたい飼い主さんは、ぜひとも最後まで読んでいただけると幸いです。
Contents
猫のダイエットの必要性について
猫の肥満は異常事態
本来、野生化で暮らしている猫は生きるために1日中獲物を探して生活しているため肥満になるということはありえません。
そのため、猫の身体は肥満に耐えられるシステムを持っていないのです。
肥満に耐えられない猫が肥満になった結果、糖尿病などの病気になってしまいます。
猫の肥満は重病のもと
ここでは肥満になった猫がかかる可能性として高い病気を列挙していきます。
①糖尿病
猫の肥満が原因の糖尿病は特に多くみられます。
猫の糖尿病はほとんどの場合2型であるため、飼い猫が糖尿病になってしまった場合、複数回の血液検査と日々のインスリン注射が必要となります。
その場合は医療費も高額になってしまい、なにより愛猫に大きな負担をかけてしまいます。
②脂肪肝(肝リピドーシス)
何らかの原因により猫の食欲が急激に低下し空腹状態が続くと、体の脂肪が肝臓に動員されてエネルギーに変換されます。
肥満の猫は脂肪量が多いため、脂肪を肝臓に動員するスピードが速いです。その結果、肝臓の処理速度を超え、脂肪が肝臓を覆い尽くしてしまう病気です。
この病気の症状は、急に体重が減り食欲がなくなる、よだれが出てる、黄疸などが特徴的な症状です。肝リピドーシスは命にかかわる怖い病気です。
③膀胱・尿道疾患
猫は肥満になると人間と同じように行動性が落ち、結果としてトイレに行く回数が減ります。
膀胱の蓄尿量が増えることは尿石症、猫の特発性膀胱炎、尿路閉塞、尿路感染などの猫の下部尿路疾患の発症へとつながります。
例として挙げた病気以外にも肥満と関連性のある病気は多くあります。肥満の猫がダイエットを行うことは、病気を未然に防ぐという意味でも重要なのです。
猫のダイエットの方法
まずはじめに、猫のダイエットを成功させるために必要なことは飼い主さんの強い意志です。
ダイエットのために猫の食事制限をしますが、猫は空腹感が満たされないために餌入れの前でひたすら飼い主さんにおねだりをします。
この時に飼い主さんが強い意志を持って猫のおねだりを拒絶できるかどうかがダイエットの成功のカギになるのです。
①目標体重の設定
まず、肥満の猫の本来の理想体重を知ることが大切です。
理想体重の求め方にはいくつかの方法がありますが、ここではボディコンディションスコア(BCS)を元に理想体重を求める方法を説明します。
この方法は、一般的に獣医師が用いてる方法であり、少し難しいかもしれませんが、慣れれば飼い主さんでも理想体重を計算できます。
それでも正直な話、私たち獣医師のように毎日さまざまな猫の体に触れていない限り、初めから簡単にボディコンディションスコアを判定することは困難です。
そのため、ここでは飼い主さんでも評価のしやすいいくつかのポイントをご紹介します
ポイント①猫の肋骨に触れる
まずは愛猫の肋骨を触ってみましょう
・全く肋骨が触れない(脂肪に埋もれている)場合→BCS5
・なんとなく肋骨を触れる(脂肪の上から)場合→BCS4
を目安にします。
ポイント②:横から猫の腹部を見る
次に横から猫の腹部を見てみましょう
・腹部のラインが地面と平行→BCS3
・腹部のラインがややたるんでいる→BCS4
・腹部のラインが明らかにたるんでいる→BCS5
を目安にします。ただし、腹部の肉は一度太ると痩せても伸びたままであるため、あくまで目安の評価となります。
ポイント③:腹部のくびれ
次に、猫を立たせた状態で真上から見てみましょう
・くびれがなんとなくわかる→BCS3
・くびれがわからない→BCS4
・くびれどころか膨らんでいる→BCS5
を目安に評価します。
算出したBCSから理想体重を求める
上記の方法からBCSを求めたら理想体重を算出します。BCSと理想体重との関係性は以下になります。
BCS | 理想体重(%) |
3 | 100 |
3.5 | 110 |
4 | 115 |
4.5 | 120 |
5 | 125〜 |
【計算例】BCSが4で体重が6kgの猫の理想体重を求める場合
計算式:6kg÷1.15=5.22kgが理想体重になります
②猫のダイエットの正しい食事(フード)量を決定
理想体重を求めたら、次に理想体重にするための1日に必要なカロリーを求め、その分量だけ餌を与えることが大切です。
必要なカロリー量の計算の仕方
猫のダイエット用の食事と食事量を決定する前に、まずは1日に必要なカロリー量を計算します。
肥満猫のダイエット時のカロリー量は、1日あたり理想体重×35〜40kcalといわれています。求めた理想体重をもとに必要なカロリー量を計算してください。
この1日の必要カロリー量はおやつも含んだ数字です。そのため、目標カロリー量以内であればダイエット中におやつをあげても大丈夫です。
ダイエット用キャットフードへの変更
カロリー計算ができればウェットでもドライでもミックスでも問題ありません。
適切なカロリー量のみ与えるのであれば、今まで食べていた餌のままでも大丈夫です。ちなみにウェットフードの方が水分含量が多く、満腹度は高いです。
また低脂肪、高食物線維でカロリー密度が低く、満腹効果の高い猫のダイエット用のキャットフードもありますので、少量の餌では満足できない猫にはこのようなフードが効果的です。
③猫の運動量の増加
1日の摂取カロリー量を減らしたら、今度は消費カロリーを増やしましょう。
消費カロリー>摂取カロリーとなれば確実に猫の体重は減少していきます
また猫が運動をすることは、カロリーを消費するだけでなく、筋肉量が増えて基礎代謝も上がります。ダイエットを始め、ある程度痩せてくると基礎代謝が下がってしまい体重の落ちが悪くなりますが、それを防ぐためにも日々の運動は大切です。
猫のダイエットの成功のコツはおもちゃで遊ぶこと
猫の場合はイヌのように散歩の時間を増やすというような方法を取れません。そのため、飼い主さんが猫とおもちゃで遊ぶなど、猫の運動量を増やす工夫をすることが大切です。
おもちゃで遊ぶのは1日数分だけでも効果があります。徐々に時間と運動量が増えることが理想ですが、とにかく少しでもおもちゃで遊ぶことが大切です。
猫のダイエットの正しいペース配分は?
猫の場合、急激なダイエットは肝リピドーシスの発症の可能性が高くなるため危険です。正しいペースで焦らず長期的に猫のダイエットを行うことが成功の秘訣になります。
週に1〜2%の減少が理想のペース
週に1〜2%の体重減少が理想的です。これ以上速いペースで体重が減少する場合は、少し餌の量を増やすなどし、ペースを調節するのが良いでしょう。
半年ぐらいで理想体重を目指す
短期間でのダイエットは危険であるばかりか猫へのストレスも大きいため、緩やかなペースで確実に体重を落としていきましょう。
BCS4の猫であれば半年、BCS5の猫であれば半年〜1年で理想体重を目指すのが良いと思います。
また猫の体重減少の速度も個体差がありますので、なかなか思うようにダイエットが進まないときでも焦らないことが大切です。
まとめ
猫のダイエットに関してはこれで以上になります。
飼い主さんにとって一番難しいことは、愛猫がフードをおねだりしてくるのに飼い主さん自身が耐えられるかどうかだと感じます。
理想体重を求め、それを元に計算したカロリー量だけを与えていれば必ず徐々に体重は落ちてきます。愛猫のおねだりに負けずに強い気持ちで追加のフードを与えないことが成功するかどうかのカギになります。
肥満猫は愛くるしく可愛いです。愛猫がお腹を空かせている声を無視することも苦痛です。
決して簡単なことでは無いですが、愛猫の健康のためにもおねだりに負けずに耐え抜いて、継続して一緒に頑張っていくことが大切です。